パリの某現代美術ギャラリーでハタラクune petite japonaise(ちっちゃい日本人の女の子)が、ピラミッドの底辺から垣間見るフランスアート界。でしたが、今となっては、仕事と育児に翻弄されながらも時間つくって鑑賞できたら書くブログ、です。
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おとついに書いた記事で、今年のベルリン・ビエンナーレでのキュレーター陣にマウリツィオ・カトランの名前を出しました。
このマウリツィオ・カトラン。毎日のようにその名前を聞いていた(それは大げさやけど)んですが、去年の5月以来、カトランの名前を聞くことが急激に減りました。 現代アートの世界にも、まさにモードの世界と同じように流行り廃りがあるもので、ときにはそれがとても残酷なものに思えます。 今回はそんなアート界の残酷さが、まざまざと現れたカトランを取り巻く状況について。 さて、マウリツィオ・カトランとは、1960年生まれのイタリア人アーティスト。はじめは鳴かず飛ばずでいろいろなアルバイトをしていたんですが、インテリア家具のデザインの分野でまずは名前を売り、現代アートの世界では、21世紀に入ってから一大スターにまでのし上がります。 そんな売れなかった頃の経験からか、カトランの作品は常に、現代社会、特に現代アートの世界を彼なりの皮肉とユーモアで批判したものが多く見受けられます。 例えば、1994年、カトランは、彼のパリでのお抱えギャラリーであるGalerie Emmanuel Perrotin(ギャラリー エマニュエル・ペロタン:日本人アーティストもたくさん抱えているギャラリー)の女好きで知られるペロタン氏に、一ヶ月間ピンクのウサギの着ぐるみを着用させます。 これは「Errotin, le vrai lapin(エロタン、本当のウサギ)」と題されました。フランス語で誰かのことを「ウサギ」と呼ぶのは、日本語で言ういわゆる「エッチ好き」のこと。 ![]() 一ヶ月これでがんばったペロタン氏に拍手! カトランの作品の値段の上昇が誰も止められないものになったのは、2001年の5月におこなわれたニューヨークのクリスティーズ(Christie's)でのオークションから。 ![]() この「La Nona Ora」と名づけられた今は亡きジャン・ポール2世前ローマ法王が隕石に下敷きにされちゃってる作品。 800 000$な~り~! そして翌月2001年6月にはロンドンでのオークション。 ![]() 「The Ballad of Trotsky」と題された、馬の剥製が天井から吊り下げられた作品。 560 000 ポンドでございます。 この2作品、3年後の2004年5月にはニューヨークのサザビーズ(Sotheby's)にて、 ローマ法王のほうが2700 000$! 馬の剥製のほうが1850 000$! にまで跳ね上がります。(3億円と2億円近く?) このオークションの前の段階で、「これ以上値段があがるとやばい。」って思ったのでしょうか?カトランは「La Nona Ora」を当時所持していたコレクターが再度オークションにかけることに反対します。 しかしその願いは聞き入れられず、怒ったカトランはイタリアのお抱えギャラリストであるマッシモ・デ・カルロ(Massimo De Carlo)を彼自身のギャラリーにテープで貼り付けてしまいました! ![]() 相当楽しそう。 そしてアート界の予想に反して、翌年の2005年5月に出品されたふたつのカトラン作品 ![]() 「Frank and Jamie」 ![]() 「Ostrich」 は買い手が見つからなかったのです! この日のオークションの結果が出た日。現代アート界は大騒ぎ。アーティストもギャラリストもみんな、その市場の恐さを知ったのです。でもどこかでみんな「やっぱりな。」って思ったはず。 例えアート作品であっても、現代社会では結局ある意味商品である部分は否めない。それは株や土地の値段と同じで、値段が上がり続けてもその上には空が広がっているわけではなく、天井があるのです。その天井にぶつかって落ちてしまうとまた上がることは非常に難しいのです。作品の投資対象としての価値も落ちてしまうのです。 現代アート界を皮肉とユーモアで批判し続けるマウリツィオ・カトラン。そんな彼も結局はアート界の一員であり、その渦に飲み込まれたという矛盾。 おーこわいこわい。 この記事、気に入っていただけたら、こちらのクリックもお願いしまっす。 人気blogランキングへ スポンサーサイト
* コメント *
毎日、会社の昼休みにブログを拝見しています。
カトラン氏にまつわるお話は面白かったです。 しかし、3億円とか2億円を出して買う方がおられるのですね。 世界は広い!私の住んでるのはまさしく「底辺」だと実感してしまいます。 素人の素朴な疑問ですが、こういう作品はどこに保管または飾っておくのでしょうか? 美術館に貸与して儲けるのですか?まさか自宅の玄関に・・・!!?? カトランがペロタン氏に一ヶ月間、ピンクのウサギの着ぐるみを着せ、そしてそれを一ヶ月間着続けたペロタン氏・・・ユーモアありすぎのような気が・・・(笑)
しかしモードの世界同様にアートの世界も、やはり流行り廃れがあるんですね。こわいなぁ。 audreyさん、はじめまして。
いっやー、訪問者のカウンターは上がっていっても、それは友達のおかげやったり、たまたま間違って来てしまわはった人のせいかな?と思っていたので、コメントを残してもらえるととてもうれしいものですね。ちゃんと読んでくれてる人がいたんやな~、ほわ~んと感動しています。 こんな値段でも作品を買っちゃう人はきっと、この作品のために改築できるほど大きい家を持ってたりとか世界中に家を持ってたりとかするんだと思います。多分ちょっとした美術館みたいな家に住んでるんでしょう。 私が訪問したそんなすんごいお家のお話もいつか書きたいと思っていますので、お楽しみに。 日本はみんなが小金持ちだけど、世界にはすんごいお金持ちがいるんですね。 今度のよろしく~。 Manoさん、またまたコメントありがとうございます。 こわいですよねー。って私なんかめっちゃ他人事ですけどね。 ペロタン氏はどうやって自分のデスク座ってたんだろう?普段はスラリとした素敵な方ですよ。 またきてくださいね。 つい最近blog始めたばかりです。主人も作家で私も美術の世界で働くこと20年ということでKanaさんのblog興味を持って拝見しました。
応援してます! Jamarte 自分よがりで我がままに制作しています。
しかし、海外での美術界状況は知りたいと拝見しています。 Jamarteさん、山里稔さん。
ありがとうございます。 お二人のブログもこれから拝見していきます。 そしてこんな風に言ってもらえるように、面白いことどんどん書いていきたいと思います。 これからもよろしくお願いしまーす。 最近授業でカトランさんについて習いました、美大生です。
はじめて拝見させていただきました。 おもしろかったです。それ以上にこんなに厳しい世界だとは・・・と怖いです。 レポートを書こうと悩んでいたので、参考にさせていただきます。ありがとうございました。 http://kanaparis.blog59.fc2.com/tb.php/10-21ece4f0 * トラックバック *
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