フランスアート界底辺日記//パリの某現代美術ギャラリーでハタラクune petite japonaise(ちっちゃい日本人の女の子)が、ピラミッドの底辺から垣間見るフランスアート界。
2008/07/05 (Sat) ベジャールのボレロかギエムのボレロか。

ある平日の夜、7月だというのにジャケットが必要なくらい肌寒い空気のなか、わざわざヴェルサイユまで行ってきた。なぜなら何年か前からずっと見たいと思っていたバレエの公演があったからだ。
それはボレロ。

ベジャールのボレロに出会ったのは、私が中学生の頃だった。家にいるときはいつも、WOWOWという衛星放送のチャンネルで、新しいのも古いのもとにかく映画を見まくっていた。そのなかに「愛と哀しみのボレロ」があった。邦題はセンスがないとよく言うけれど、私はいかにも80年代っぽい大げさな邦題がいまだに好きだ。特にこの「愛と哀しみのボレロ」。タイトルだけでしびれる。しかしその頃の私はタイトルにしびれていたわけではない。この映画が WOWOWで放映されるたびに見ていたのは、最後のダンスシーンを見るためだった。そのことに今気づいた。タイトル同様ものすごく劇的な内容の映画なのだが、あんなにも何度も見たのに他のシーンは一切記憶にない。
あの頃はボレロという音楽は知っていたが、ベジャールのべの字も知らなかったし、それこそバレエに関しても、その「バレエ」という単語しか知らなかった。

そしてパリに来て、何年か前にバスティーユのオペラでボレロが上演されるというので見に行った。「あ、あの映画で見てたダンス。」と気づき、とにかく感動しまくった。観客の集中と緊張をあんなに感じた公演は、そのころの私はまだあまり体験したことがなかった。そのときのボレロは、たしかパリオペラ座の劇団によって上演された。中心の赤いテーブルの上で踊ったのは女性だった。彼女には私が映画で釘付けだったあの男性ダンサーの持つ吸引力はなかった。

そして今回。その何年か前の公演のときから今までの間に、私もダンス公演にしょっちゅう足を運ぶようになり、シルヴィーギエムのダンスも見ていた。インターネットでどこかの誰かが、「シルヴィーギエムの踊るボレロは、「ベジャールのボレロ」ではなくなり、「ギエムのボレロ」になる。」と書いていた。その一文が心に残って、「私もいつか。」と思っていたところに今回の公演があった。私は「ギエムのボレロ」を見に行った。

音楽にまったく興味のない私だが、ラヴェルのボレロはよく聞く。この音楽はもう何時間でも聞いていられるくらい好きなのだ。楽曲としてボレロを語ることは知識も耳もないので不可能だが、これだけは言える。私がなぜボレロを好きなのか。物事には常に「終わり」があって、楽しいこともうれしいことも辛いことも悲しいことも確実に終わるときはくる。素晴らしいものを前にして感動しているとき、「このままずっと終わってほしくない。このままずっとここにいたい。」と思うけれど、ボレロだけは違う。ずっと終わってほしくないと思っている反面、終わりのあまりにも強烈な素晴らしさも知ってしまっているので、「終わりはもっとすごい。」と終わるのを待ってしまうという矛盾が自分の中でできてしまうのだ。それはベジャールのボレロでも同じだ。「このまま踊り続けてほしい。」と思っているのに、「終わりに近づいてきた。」と毎秒毎秒興奮が高まっていくのを抑えられない。
私が音楽でもダンスでもボレロを愛してやまないのは、その矛盾する期待と高揚感と集中と緊張が私の中で渦を巻いて爆発しそうになる。

シルヴィーギエムはいつも三つ編みにしている赤毛をほどいてボレロを踊る。いつもなら気に食わない彼女の長過ぎる腕や足、細くてしなやかすぎる体も、すぐにヒラヒラとしてしまう動きも、ボレロでは、私が今までに一度も見たことのない別の演目を演じているように見える効果を持っていた。東京バレエ団の男性ダンサーたちとの公演であったので、彼女の長身とダンサーたちの比較的小柄な体格が、素晴らしい対比を見せ、また彼女の赤毛とダンサーの一様に黒い髪の毛が、赤いテーブルと椅子、そして真っ黒のステージに合わさって、非常に美しかった。

ベジャールのボレロはギエムのボレロになっていた。後半に進むにつれて、ギエムの高揚がステージから溢れ出していた。そしてもうそのときには舞台をしきっているのは、ベジャールではなく、ギエムだった。「あ、これか。ギエムのボレロは。」と自然にギエムのボレロになる瞬間を感じた。「ボレロはこんな風にも存在できる。」と思った。

寒くて寒くて震えていたのに、ボレロを観ている間はそれを感じなかった。


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なんか書き出したら真面目な感じで書いてしまったので、付け足しです。

写真がたくさん載っているブログを発見しましたので、リンクさせていただきます。
前編後編


ボレロの見所は、舞台の美しさ、中央のダンサーそして絶対に忘れてはならない、というか絶対に目がいってしまう素晴らしい周りの男性ダンサーたちです。彼らの腰のフリは素晴らしい。そして椅子に座っているダンサーたちが、たまに手を肩にやったり、上半身を触ったりする動きがあるんですが、それがもうたまらなく美しく官能的で、失神しそうになるくらいかっこいいのです。ただのおばちゃんだと思われてもけっこう。本当に美しいんですから。特に今回は東京バレエ団ということで、みなさん日本人男性でした。西洋人がこのダンスをするよりも日本人のほうが、まあ日本人の私だからからしれませんが、妙に生々しいというか、生の美しさが増すとでもいうのか、もう何倍も良かったと思います。

私は今のところ行くつもりはありませんが、来年はパリオペラ座でボレロが上演されます。
一生に一度は本物を観てほしいダンスです。



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謝謝

バーゼルの記事とてもおもしろかったです。やっぱり作り手とは見方が違うけえ、とても参考になりました。 私もいろいろ書きたいけど、筆無精だからkanaさんみたいに上手くかけんなあ。 でもこまめに写真はアップするので、暇なときにでも覗いてみてください。
トラックバックはわしもようわからんのですが、迷惑なら消しちゃってください。
パリのどっかでいつかあってるかもしれませんねえ。
ではこれからも楽しみにしています。

2008/07/05 19:21 | Ckinoco [ 編集 ]


Ckinokoさん、こんにちは。
あ、面白かったですかー、バーゼルの記事?日頃から私はアートフェアというものは展覧会じゃない、っていうのをきっちりわかって観てほしいと思っているので、シフトの記事では特にブースという概念に重点を置いて書いたつもりです。リステのほうはまあ適当ですけどね。
トラックバックがされてないようです。ま、べつに消さないけど、見つからないので消すこともできません。Ckinokoさんのブオr具もたまに拝見してますよ!
ではこれからもよろしくお願いしますー!

2008/07/07 21:06 | kana [ 編集 ]


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Author:kana
パリにある現代美術ギャラリーで下っ端としてハタラク。

京都生まれの京都育ち。2000年5月にフランスはリヨンに来て4年何ヶ月かほど過ごし、2004年9月から現在に至るまでパリに住んでます。

こんなものも書き始めました。
「パリ現代アートギャラリー攻略ブログ」
http://kana-sunayama.iza.ne.jp/blog/
こっちでも書いてます。
SHIFT
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パリ、フランス、はたまたヨーロッパ圏内での展覧会やアート系のスポットに関する取材、インタビュー、執筆など承ります。依頼や問い合わせなどは、お気軽に一番下のメールフォームからお送りください。

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