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消えちゃったアート作品
前回のデロールに関する記事で、「お世話になってる」と書きました。
現代アートを扱うギャラリーで働いていてデロールにお世話になる、アーティストでもないのに?と思われる方もいるかもしれません(いや、いないか?)。そんなわけで「デロール助けテー!」と叫ぶエピソードをいくつか紹介。


2年ほど前から私の働くギャラリーのお抱えになったあるアーティストBさん、ギャラリーに彼女の新しい作品が届く度、展覧会をしなくても1ヶ月もたたないうちに売れて行きます。
そんな彼女の作品を大量に購入している有名コレクターがいるんですが、彼が自分でオープンしたスペースで、彼女の作品を含めたグループ展を行うことになりました。そのコレクターさんが所有している作品からの展示になるので、新しい作品の制作や運送の手配もなく、プレス用に写真や資料を送ったり、「前にも渡してるけど。」と思いながら作品の展示方法に関する資料を再度送ったりするところで私の仕事は終わるはずでした。
「今週末にはあそこのヴェルニサージュやなあ。」とぼんやり思っていたある日、そこで仕事をしている真っ最中の設営業者さんから(ちなみに私の働くギャラリーで設営をいつも頼む人と同じ人。偶然ではなく紹介だったので。)電話がかかってきました。
「おーー、元気ー?どうよ、設営進んでる?Bの作品はいくつくらい展示されるのー?きれい?」なんて聞いたら、なんと「カナ、羽根が消えた。」という答え。
何を言ってるのか最初はよくわからなかったけれどよく聞いてみると、その展覧会でも最も中心的存在になるはずだった、Bの3メートルほどの高さがあるインスタレーション作品についてたはずの羽根が消えてなくなってる、ということ。
全部虫に食べられてしまっていたのです。
「きょえーーー!」となり、すぐにアメリカ在住のBに電話!と思ったんですが、時差のせいで向こうは明け方!メールをして返事をとりあえず待つしかない。
何を聞かなければいけないかというと、
その虫に食べられてしまった羽根が一体どの鳥の羽根であったのか。
今までにギャラリーが売ったBの作品をもう一度すべてチェックしなおし、羽根や果物、貝殻などのオーガニックなもので、加工がされていない状態で作品に素材として使用されたものがないか。
という二点がアーティストからのとりあえずの必要情報でした。
何時間か後に受け取ったメールの返事を元に、「デロール助けテー!」と電話。その作品に使用されていた羽根と同じものがすぐに手に入るか、加工されていない場合はどのように保存すればいいのか、などを教えてもらいます。
こういうのって自然史博物館とかに電話したりしても教えてもらえるんですが、実際知識を持っている人に電話が届くまでの時間が長い。でもデロールなら、電話を受け取った人がその知識を持ってるからすぐにその場で答えてくれるんです。これはありがたい。
これらの情報をまた設営業者に電話して伝えました。
私ができることは残念ながらこの場合ここまで。
羽根が使用されているのはその作品の一部分でしかないので、その展覧会の責任者も羽根が消えたと気づいた瞬間は「このままで展示しましょう!」といきりたったらしいですが、さすがに羽根なしの作品と写真で見る羽根ありの作品の姿は違いすぎるということで、却下。ヴェルニサージュまであと二日ということで、その作品の展示自体キャンセルになりました。その展覧会を私も見に行きましたが、会場にぼっかりある空間が空いているのです。「あーここに展示されるはずやったんや、、、あの作品。」とむなしさが残ります。
例えばもしもこれがギャラリーにある、まだ売れていない作品に起こったことなら、すぐにその場で消えてなくなった羽根の残りかすと憎い虫とその幼虫も、「きもちわるー!!」なんてギャアーギャー騒ぎながらも果敢に封筒かなんかに入れて、デロールまで走ったでしょう。「この虫に食べられたこの羽根ください!」って。その場ですぐになんの虫なのか、その対処法も教えてもらえたと思います。で、アーティストの指示をあおぎながら簡単な修復をして、なんとか2日後のヴェルニサージュにとりあえず穴が空かないようにはできたと思います。
でも今回はもう売れてしまった作品に起こったこと。どんな状態で保存されていたのかもわからないし、修復やそれにかかる費用なんかもすべてコレクターにかかってくるので、ここで下手に羽根だけ買ってきたりしても話がややこしくなるだけです。修復の内容もそのコレクターがいかに保険屋さんからうまくお金を引き出すかにかかっています。
設営の現場にいた人たちの話を聞くと、問題の作品を展示するために3メートルの高さのあるケースを側面から開けた瞬間、黒い点がぶわーっと散るのが見えた(まさに、まっくろくろすけ!!)、でも目の錯覚かと思ったので作品を取り出し、カバーをはずしてみて、「ああ!羽根がない!」ということになったらしいです。で、よく見てみたら、羽根のあったあたりにはちっちゃい虫やら幼虫やらがニョロニョロしてたって、ヒーーーーー!
この作品の修復は羽根をくっつけていいだけのもんではありません。とりあえずは羽根をくっつければその場をしのげるかもしれないけれど、作品に住んでる虫をすべて除去しないといけません。まず目に見える大きさの虫やフンや幼虫はピンセットと刷毛でひとつずつ取っていく。でも虫は目に見えないところにもひそんでるかもしれません。この問題のおかげで知ったんですが、何メートルもの大きさでその上壊れやすいものの害虫除去をするために、どでかい風船のようなものにその作品を入れて、その風船の中を無酸素状態にしてありとあらゆる生物を除去するというすんごい業者さんがいるらしいです。でもまだ問題は残ってます。害虫は作品の羽根を食べてしまったけれど、その作品が入っていた木材でできた箱にももちろん及んでいました。ということで、その箱を作り直し。
これは合計するとえんらい修復代になりそうです。

設営を担当した人が私たちのギャラリーでよく働いている人だということと、この問題はこれからBとコラボレートを続くていくにあたって、私たちにとっても他人事ではないことだったので、結構情報収集したのですが、現在は保険屋さんと展覧会責任者の交渉が続いています。

この問題があったあと、「この作品に使われている素材はどうもやばそうだ。」と思うBの作品を購入したコレクターや美術館の倉庫巡りです。作品のケースを開けて、日本で売ってるタンスにゴンみたいなやつを大量投入、そしてビニール系の梱包パックを全て紙系のものに替える。大変でしたよー。
同僚2人と一緒に車で倉庫巡り、ギャラリーでパソコンの前に一日中いるのと比べると、まあそれなりに楽しかったけど。


他に私が聞いた、消えてなくなってた作品の話をふたつ。

Maurizio Cattelan/マウリツィオ カテランの「Turisti/ツーリスト」という作品。
15羽のヴェネチアのハトの剥製でできたインスタレーションです。
Turisti.jpg d4434418r.jpg
あるギャラリーで働いている友人が、コレクターに見せるために展示をしようと箱からハトを一羽取り出そうとしました。その瞬間、ハトが無惨にぱらぱらぱらーと、その友人の手の上でくずれていったのです。ひーーーーーー!
外見はまったく何も問題ないように見えていても、実は中側がすっかり腐っていたり、虫に食べられていたりすることがあるんですねえ。


おつぎはヤン ファーブルのこのシリーズ。
artwork_images_424402573_275143_jan-fabre.jpg
フクロウの頭を羽根で再現した作品。
この作品を一体購入したあるコレクターさん。長い間箱に入れっぱなしで家に飾っていなかったので、模様替えの際にこれ飾ろうと、箱を開けました。すると、箱の中は空っぽ。フクロウの目玉に使われているガラス玉だけが転がっていたらしい。ひーーーーーーー-!


どちらの話も、私たちにとっては怪談話でございます。いつまでも語り続けていかれるでしょう。


ちょっとした小話を紹介するつもりがすごく長くなってしまいました。

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